イヤホン

小さい頃から電車の音が大好きだ。

がたんごとん、と発車してから少しずつ車輪の動きが速くなっていく音も好きだけれど、周りのテンポ良い雑談や外からの雑音、窓から入ってくる風が混じった音が一番好き。

今この瞬間、この場の全ての音が偶然居合わせて自分に聞こえている、という感覚が心地良い。偶然を受け入れることは、自分には変えられないものがあると認めることであり、力を抜くことでもある。

中学に入ってイヤホンを買ってもらってから、あの低くて柔らかい音を聞かなくなった気がする。

イヤホンから入ってくる音は全て自分が選択した曲や情報であり、外の世界から耳を塞ぐことで自分だけの閉鎖された空間が出来上がる。好きな曲を聴くことで幸せな気持ちになる日や、疲れ切った満員電車の中ノイズなんて楽しめない日も沢山ある。

それでも、やっぱり偶然聞こえてくる会話や雑音にしかない愛おしさがある、と思っている。

だから、たまにはイヤホンを外して電車に乗ったりする。